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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)214号 判決

アメリカ合衆国

カリフォルニア州ミルピタス、バカイ・コート八五一

原告

ザイコール・インコーポレーテッド

右代表者

ウィリアム・エイチ・オーエン三世

右訴訟代理人弁護士

湯浅恭三

大場正成

近藤惠嗣

同弁理士

田中英夫

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 麻生渡

右指定代理人

中村剛基

奥村寿一

有坂正昭

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一  当事者が求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和六二年審判第二〇八五五号事件について平成元年五月一五日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文一、二項と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「不揮発性のランダム・アクセス記憶装置」とする発明につき、一九七九年八月三一日付けアメリカ合衆国出願による優先権を主張して昭和五五年九月一日、特許出願をしたところ、右出願は昭和五六年四月二三日、出願公開されたが、同六二年八月七日、拒絶査定を受けたので、同年一一月三〇日、審判を請求した。特許庁は、右請求を同年審判第二〇八五五号事件として審理した結果、平成元年五月一五日、右請求は成り立たない、とする審決をした。

二  特許請求の範囲第一二項に記載の発明(以下「本願第二発明」という。)の要旨

「半導体基板を含み、内容が電気的に変更可能な不揮発性の集積回路記憶装置において、

前記記憶装置に電力を与えるために低レベルの電力供給を受ける装置と、二進数の形式でデータを記憶する複数個の揮発性の記憶素子と、複数個の不揮発性の記憶素子とを有するメモリー列装置であつて、前記不揮発性の記憶素子の各々が、対応する揮発性の記憶素子と前記基板とから電気的に絶縁されたフローティングゲートと、該フローティングゲートに電荷を付加し又は該フローティングゲートから電荷を取り去り二進数の形式でデータを不揮発性の記憶をする手段とを有するメモリー列装置と、

記憶指令信号に応答して、各々の前記揮発性の記憶素子の現在のデータ状態を対応する前記不揮発性の記憶素子に複写するストア装置であつて、

前記記憶指令信号に応答して、前記低レベルの電力供給を利用して高電圧パルス信号を発生し、かつ該パルス信号を前記不揮発性の記憶素子の各々に結合して、それにより前記のデータの複写を行う高電圧発生装置を備えるストア装置と、

呼出し指令信号に応答して前記の不揮発性の記憶素子の少なくとも一つにあるデータをそれに対応する前記揮発性の記憶素子に複写する呼出し装置を有することを特徴とする記憶装置。」(別紙図面(一)参照)

三  審決の理由の要点

1  本願第二発明の要旨は、前項記載のとおりである。

2  引用例一(「電子技術」二一巻四号二六頁ないし二八頁、一九七九年四月発行)には、半導体基板を含み、内容が電気的に変更可能な不揮発性の集積回路記憶装置において、右記憶装置に電力を与えるために電力供給を受ける装置と、二進数の形式でデータを記憶する複数個の揮発性の記憶素子と、複数個の不揮発性の記憶素子とを有するメモリー列装置であって、右不揮発性の記憶素子のそれぞれが、対応する揮発性の記憶素子と前記基板とから電気的に絶縁された電荷トラップと、右電荷トラップに電荷を付加し又は右電荷トラップから電荷を取り去り二進数の形式でデータを不揮発性の記憶をする手段とを有するメモリー列装置と、記憶指令信号に応答して、それぞれの前記揮発性の記憶素子の現在のデータ状態を対応する前記不揮発性の記憶素子に複写するストア装置であって、右記憶指令信号に応答して、高電圧パルス信号を前記不揮発性の記憶素子のそれぞれに結合して、それにより前記のデータの複写を行うストア装置と、呼出し指令信号に応答して前記不揮発性の記憶素子の少なくとも一つにあるデータをそれに対応する前記揮発性の記憶素子に複写する呼出し装置を有することを特徴とする記憶装置が記載されている(別紙図面(二)参照)。

3  本願第二発明と引用発明一を対比すると、両発明は、不揮発性の記憶素子が、本願第二発明においてはフローティングゲートを有するものであるのに対し、引用発明一は電荷トラップを有するものである点(相違点〈1〉)、及び、本願第二発明は、低レベルの電力供給を利用して高電圧パルス信号を発生し、かつ、右パルス信号を前記不揮発性の記憶素子のそれぞれに結合して、それにより前記のデータの複写を行う高電圧発生装置を備えているのに対し、引用発明一では、高電圧パルス信号をどのようにして得るのか明らかではない点(相違点〈2〉)でそれぞれ相違するが、その余の構成において一致する。

4  各相違点について判断すると、相違点〈1〉は、不揮発性記憶素子として、フローティングゲートを有する素子及びこれと揮発性記憶素子を組み合わせて揮発性記憶素子の不揮発性化を図った記憶装置も、例えば、引用例二(「A 256-Bits Nonvolatile Static RAM」(Eli Harari etal.,1978 IEEE International Solid-State Circuits Conference,February 16、1978、別紙図面(三)参照)で公知であるから、相違点〈1〉を格別のものとすることはできない。

相違点〈2〉は、低レベルの電力供給を利用して高電圧パルス信号を発生し、かつ、右パルス信号を不揮発性の記憶素子のそれぞれに結合して、不揮発性の記憶素子に書込みを行うことは、引用例三(特公昭五三-三九二九一号公報、別紙図面(四)参照)で公知であるから、これを引用発明一の揮発性の記憶素子の現在のデータを対応する不揮発性記憶素子に複写するときの高電圧パルスを得る手段として使用することは、当業者が容易に設計変更し得る程度の事項にすぎない。

5  したがって、本願第二発明は、引用発明一ないし三に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められるから、特許法二九条二項により、特許を受けることができない。

四  審決の取消事由

審決の理由の要点1ないし3は認める(ただし、3のうち、審決が引用発明一においては、高電圧パルス信号をどのようにして得るのか明確な記載がないと認定する点は正確ではない。引用発明一では高電圧パルス信号を外部電源から得ているものである。)、同4のうち、引用例二、三に審決摘示の技術的事項の記載があり、これらがいずれも公知であることは認める(なお、引用例二については、拒絶理由通知がないから、本願出願前における当業者に周知の技術水準を示すものとしてのみ使用が許されるものであり、これを公知例として使用することは許されない。)が、その余は争う。審決は、各相違点の判断を誤ったものであるから、違法であり、取消しを免れない。

1  相違点〈1〉の判断の誤り(取消事由(1))

揮発性記憶素子と不揮発性記憶素子を組み合わせて揮発性記憶素子の現在の記憶内容を不揮発性記憶素子に「書き込み」及び「消去」、すなわち、「複写」する不揮発性記憶装置において、「複写」のための電力を得る高電圧発生装置を半導体基板上に設けること、すなわち、オンチップ化を可能としたのは、本願第二発明がフローティングゲート型の不揮発性記憶素子を必須の構成要件として採用した結果である。すなわち、本願出願前に不揮発性記憶素子として電荷トラップ型とフローティングゲート型が格別異ならない技術として共に知られていたものであるが、後記2に詳述するように、本願出願前においては、電荷トラップ型の不揮発性記憶素子と揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置において、不揮発性記憶素子への「複写」、すなわち、「書き込み」と「消去」に必要な電源を得るための高電圧発生装置をオンチップ化した場合には、揮発性記憶素子の記憶内容の「書き込み」は可能であるが、「書き込み」と「消去」を同時に実現することは不可能であるとの認識が当業者の常識であった。そして、電荷トラップ型の不揮発性記憶素子を使用した不揮発性記憶装置についてのこのような認識を前提とすれば、当業者間において、前記のように、電荷トラップ型と格別異ならないものと認識されていたフローティングゲート型の不揮発性記憶素子を使用した不揮発性記憶装置における「書き込み」と「消去」のために、オンチップの高電圧発生装置を組み合せることも同様に不可能であろうと予測するのが当業者の常識であったはずであるから、かかる常識を前提とする限り、たとえ、不揮発性記憶素子において、フローティングゲート型を採用したものが周知であったとしても、これを採用して揮発性記憶素子と組み合わせて右素子の現在の情報内容の不揮発性化を図る際に、オンチップの高電圧発生装置の組合せを想到することは容易ではないというべきである。しかるに、審決は、電荷トラップ型の不揮発性記憶素子を採用しても、オンチップの高電圧発生装置の利用が可能であるとの誤った前提認識に基づいて、相違点〈1〉を格別のものではないとしたものであるから、審決の右判断は誤っている。

2  相違点〈2〉の判断の誤り(取消事由(2))

本願第二発明は、オンチップした高電圧発生装置によって、揮発性記憶素子の現在のデータ状態を不揮発性記憶素子に「複写」、すなわち、「書き込み」と「消去」の両方を行うこと(なお、被告は、本願第二発明の特許請求の範囲に記載の「複写」とは、情報内容の「書き込み」を意味し、その「消去」は含まれないとするが、通常、「消去」操作は「書き込み」操作の前提となることからしても、右解釈が誤りであることは明らかである。)を可能としたものであるところ、本願出願前において、オンチップの高電圧発生装置を組み込んだ電荷トラップ型の不揮発性記憶素子と揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置は、引用発明三も含めて、実質的に「書き込み」専用、すなわち、「書き込み」は可能であるが「消去」は不可能であるとする認識が当業者間における常識であった。

すなわち、一般に、不揮発性の記憶素子においては、電荷トラップやフローティングゲートへの電荷の注入とこれらからの電荷の抜取りが同一の場所で起こるため、不揮発性記憶素子への「書き込み」と「消去」に反対極性の高電圧を必要とし、「消去」を行うためには、「書き込み」と反対極性の高電圧を得るか、同一極性の高電圧を反対方向に加えるかのいずれかが必要である。そして、このことは、電荷トラップ型の不揮発性記憶素子を利用した場合にも、同一極性の高電圧を同一方向に加えることによって「書き込み」と「消去」を実現することは不可能であるため、単一極性の高電圧を発生するところの引用発明三も「書き込み専用」あるいは「消去専用」として用いる外ないものであり、「書き込み」と「消去」の両用として使用することはできない。

のみならず、引用例一の回路と同三の回路を単に組み合わせることは以下に述べるように不可能である。すなわち、引用発明一の回路は大電流を要するのに対し、引用発明三の回路は低電流で動作する回路のみに使用可能なものであるから、引用発明三の供給する電流では引用発明一の回路が作動しないことは明らかである。また、前述のとおり、引用発明三の回路は単一極性であるのに対し、引用発明一の回路では両極性を必要としている。したがって、以上の二点からみても明らかなように、引用発明一の回路と引用発明三の回路を接続することはできないのである。なお、大電流を要するという点においては、被告の援用する乙第一号証及び同第二号証に記載の各回路も同様であるから、これらの発明においても、大電流を必要とする点は解決されていないのである。

したがって、このような引用発明三を引用発明一と組み合わせたとしても、オンチップの高電圧発生装置によって「複写」を可能とした本願第二発明に到達することはできない。また、被告がフローティングゲート型の不揮発性記憶素子においても、オンチップの高電圧発生装置によって「書き込み」と「消去」の両方が可能であることが示唆されているとして援用する乙第二号証も、外部に消去用電源を有することからすると、「複写」すなわち、「書き込み」と「消去」について、オンチップの高電圧発生装置の使用が可能であることを示すものではない。かえって、乙第二号証には、同一チップ上において、相互に反対極性のオンチップ高電圧発生装置を作成することは困難であることが示唆されているのである。

以上のように、揮発性の記憶素子のデータを不揮発性の記憶素子に「複写」する場合、引用発明一のような電荷トラップ型の不揮発性記憶素子と引用発明三のようなオンチップの高電圧発生装置を組み合わせることができないという技術状況の中において、本願発明者は、導体であるフローティングゲートでは、電荷の注入と抜取りを別の場所で行うことができるという性質に着目して、フローティングゲートを不揮発性の記憶素子として採用することにより、同一極性の高電圧を同一方向に加えるにもかかわらず、「書き込み」と「消去」の両方の実行を可能とし、「書き込み」専用であったはずのオンチップの高電圧発生装置が「複写」にも利用できるようにしたものである。

審決は、引用発明三を引用発明一の揮発性の記憶素子の現在のデータ状態を対応する不揮発性記憶素子に「複写」するときの高電圧パルスを得る手段として使用することは当業者が容易に設計変更し得る程度の事項にすぎないとする。しかし、引用発明一の不揮発性記憶素子は電荷トラップ型であるから、引用発明三を引用発明一に適用するためには、少なくとも、不揮発性の記憶素子としてフローティングゲート型のものを採用しなければならないが、オンチップの高電圧発生回路によって「複写」を可能とするためにフローティングゲート型の不揮発性記憶素子の採用を示唆する記載は、いずれの引用例にも見当たらないのであるから、フローティングゲート型の不揮発性記憶素子を採用した上で、引用発明三の技術を適用することは、「当業者が容易に設計変更し得る程度の事項」ではない。

なお、引用例二は、公知技術として拒絶理由に引用されていなかったのであるから、引用発明一から同発明二に至ることが容易であり、さらに、同発明二から同発明三に至ることが容易であるとの拒絶理由は、引用例一に基づく容易推考を、拒絶理由通知を発することなく、引用例二に基づく容易推考に変更するものであるから許されない。このことは、審判段階で援用されていなかった乙第二号証についても同様であり、引用例二と乙第二号証を拒絶の根拠とすることが許されないのは当然のことである。

第三  請求の原因に対する認否及び反論

一  請求の原因に対する認否

請求の原因一ないし三は認めるが、同四は争う。審決の認定判断は正当である。

二  被告の反論

最初に、各取消事由に反論する前提として、審決の理由の趣旨を確認しておくこととする。本願第二発明は、これを平易に表現すると、揮発性の記憶素子と不揮発性の記憶素子を組み合わせることにより、揮発性記憶素子に記憶されている現在のデータ状態を不揮発性の記憶素子に複写して、電源が切断されても現在のデータ状態を保存しておき、電源が復旧したとき、以前のデータ状態を不揮発性の記憶素子から揮発性の記憶素子へ呼び出す記憶装置において、不揮発性の記憶素子をフローティングゲート型と特定し、不揮発性の記憶素子にデータを複写する際に必要となる高電圧パルス信号を外部から供給される低レベルの電力供給を利用して集積回路内部で発生するものと特定しているものである。かかる本願第二発明に対し、審決は、揮発性の記憶素子と不揮発性の記憶素子を組み合わせて、揮発性の記憶素子に記憶されている現在のデータ状態を不揮発性の記憶素子に複写して、電源が切断されても現在のデータ状態を保存しておき、電源が復旧したとき、以前のデータ状態を不揮発性の記憶素子から揮発性の記憶素子に呼び出す記憶装置が本願出願前公知であったことの証拠として引用例一を挙げ、このような記憶装置において、不揮発性の記憶素子をフローティングゲート型としたものも、引用例二で示すように当業者間で知られていたことを指摘した上で、不揮発性の記憶素子ヘデータを格納するときに必要な高電圧パルス信号を、外部から供給される低レベルの電力供給を利用して集積回路内部で発生する技術も引用例三に見られるように本願出願前公知であったことからすると、これらの各引用例から当業者は本願第二発明を容易に発明することができたものと判断したものである。

(一)  取消事由(1)について

原告は、審決の相違点〈1〉に関する判断は誤りであると主張するが、以下に述べるとおり、失当である。すなわち、本願第二発明は、前述したように、揮発性記憶素子と不揮発性記憶素子を組み合わせて、揮発性記憶素子の不揮発性化を図る発明において、フローティングゲート型の不揮発性記憶素子を採用したものであるが、審決はこの点について、記憶指令信号に応答して、揮発性の記憶素子の現在のデータ状態を対応する不揮発性記憶素子に複写するストア装置であって、前記記憶指令信号に応答して、高電圧パルス信号を前記不揮発性の記憶素子の各々に結合して、それにより前記データの複写を行うストア装置と、呼出指令信号に応答して不揮発性の記憶素子の少なくとも一つにあるデータをそれに対応する揮発性の記憶素子に複写する呼出装置を有する記憶装置が引用例一に記載されており(審決は、右に述べた揮発性記憶素子と不揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置に関する技術思想が公知であることを示す趣旨で引用例一を引用したものであり、同引用例に記載された具体的な回路を引用したものではない。)、さらに、引用例二から明らかなように、本願出願前において、フローティングゲート型の不揮発性記憶素子と揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置も当業者に周知の技術として存在したものである。すなわち、本願出願当時、当業者間において、揮発性の記憶素子と不揮発性の記憶素子とを組み合わせた記憶装置は、不揮発性の記憶素子が電荷トラップ型であろうと、フローティングゲート型であろうと、共に良く知られていたものであるから、本願第二発明において、不揮発性記憶素子としてフローティングゲート型を採用したことを格別のものとすることはできないとした審決の判断に誤りはない。なお、審決が引用例二を援用した点について付言すると、引用例二は原告自身も本願明細書中で従来技術として引用しているように、原告が熟知していた技術であり、特に指摘するまでもなく当業者間において本願出願前に良く知られていた技術である。したがって、審決は、引用例二を公知であると指摘しているところであるが、その趣旨は引用例二は実質的には周知の技術であるから、拒絶理由通知を発するまでもなく、審決が引用例二を援用した点に問題はない。

(二)  取消事由(2)について

原告は、引用例一の回路と同三の回路の組合せが不可能であることを強調するが、審決は、既に述べたように、右各引用例記載の具体的な回路のレベルにおいて、右の組合せが可能であるとか、あるいは、容易であるとか説示しているものではないから、右主張は、審決の趣旨を正解しないものといわざるを得ない。すなわち、審決は、相違点〈2〉の判断において、記憶指令信号に応答して、揮発性の記憶素子の現在のデータ状態を対応する不揮発性記憶素子に複写するストア装置であって、前記記憶指令信号に応答して、高電圧パルス信号を前記不揮発性の記憶素子の各々に結合して、それにより前記データの複写を行うストア装置と、呼出指令信号に応答して不揮発性の記憶素子の少なくとも一つにあるデータをそれに対応する揮発性の記憶素子に複写する呼出装置を有する記憶装置が引用例一で公知であり、このような揮発性記憶素子と不揮発性記憶素子とを組み合わせた記憶装置の不揮発性記憶素子として、フローティングゲート型の記憶素子を使用したものも、前述したように、本願明細書に従来技術として引用例二が記載されていることから明らかなように、既に周知であったことを指摘し、このような事情を考えれば、引用例三のようにオンチップの高電圧発生装置を用いて不揮発性記憶素子に「書き込み」と「消去」の両方を行うことが明記されているとおり、公知であったのであるから、揮発性記憶素子と組み合わされた不揮発性の記憶素子が引用例一のような電荷トラップ型のものであろうと、引用例二のようなフローティングゲート型のものであろうと、揮発性記憶素子の現在のデータを対応する不揮発性記憶素子に複写するときの高電圧パルスを得る手段をオンチップで形成することは当業者が容易に設計変更し得る程度の事項にすぎないと説示しているのである。そして、このことは、乙第二号証記載のものにおいて、オンチップの高電圧発生装置を使用して、フローティングゲート型の記憶素子に「書き込み」及び「消去」の両方を行うことが示唆されていることから判断しても、前記の点は当業者にとって明らかであったという他はない。

また、本願第二発明の特許請求の範囲の記載中の「複写」とは、「書き込み」を意味するものであるが、仮に、「消去」も含まれるとしても、本願第二発明は、「書き込み」と「消去」に同一極性の電圧を使用するとの限定を行っていないところ、乙第二号証にも示唆されているように、逆極性のオンチップの高電圧発生装置を作成することも当業者が容易に想到し得る程度の事項にすぎなかったのである。さらに、同一極性の高電圧発生装置をオンチップのスイッチを使用して、不揮発性記憶素子の反対方向に印加することによって、「書き込み」と「消去」の両方が可能であることも、当業者にとって自明という他はない。すなわち、オンチップの高電圧発生装置を使用して、フローティングゲート型の不揮発性記憶素子の「書き込み」と「消去」の両方が可能であることは、乙第二号証から明らかなように、当業者にとっては自明であったのであり、このことは引用例二のような揮発性記憶素子とフローティングゲート型の不揮発性記憶素子とを組み合わせた記憶装置において、オンチップの高電圧発生装置を使用して複写を行うことが可能であったことも、当業者にとって自明であったことに等しいのである。

原告は、電荷トラップ型の不揮発性記憶素子とオンチップの高電圧発生装置の組合せが不可能であれば、フローティングゲート型の不揮発性記憶素子とオンチップの高電圧発生装置の組合せも同様に不可能であると予測するのが当業者の常識であると主張するが、既に述べたように、引用例三には、オンチップの高電圧発生装置によって電荷トラップ型の不揮発性記憶素子の「書き込み」と「消去」の両方を行うことが記載されており、このことは電荷トラップ型の不揮発性記憶素子とオンチップの高電圧発生装置の組合せが可能であることを証明しているものである。…したがって、揮発性記憶素子とフローティングゲート型の不揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置において、オンチップの高電圧発生装置を組み合わせることも可能であると予測するのが当業者の常識であったはずである。また、このことは、前述したように、乙第二号証において、フローティングゲート型の不揮発性記憶素子にオンチップの高電圧記憶装置を使用して「書き込み」と「消去」の両方を行うことが示唆されていることからも明らかであり、原告の前記主張は失当である。

第三  証拠

証拠関係は書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三並びに審決の理由の要点のうち相違点〈1〉及び〈2〉に対する判断を除くその余の点についてはいずれも当事者間に争いがない。

二  本願第二発明の概要

いずれも成立に争いのない甲第二号証(本願発明の出願公開公報)、同第三号証(昭和六二年七月九日付け手続補正書)、同第四号証の一ないし三(同六三年三月七日付け手続補正書)、及び同第五号証(同六四年一月五日付け手続補正書)によれば、本願第二発明の概要は、以下のとおりと認められる。

本願第二発明は、金属酸化膜半導体ランダム・アクセス・メモリー(MOSRAM)装置、特に集積化されたフローティングゲート回路素子を内蔵する不揮発性スタティクRAMシステムに関するものである。

スタテイックRAMが、電力供給が止められたとき素子中の情報が脱落する揮発性素子であったため、従来から、このような半導体回路に不揮発性を与えるための回路素子及び回路構造の開発に努力が払われてきた(例えば、一九七八年IEEE、「国際固体回路会議抄録」一〇八、一〇九頁のE.Harari等の「256ビツトの不揮発性スタテイツクRAM」(引用例二)、同「抄録」一九六、一九七頁のF.Berenga等の「E2PROM TVシンセサイザ」等)。ところで、非常に薄いゲート酸化膜を使用するフローティングゲート型の不揮発性の記憶素子を内蔵する不揮発性のスタティックRAMが公知であるが、これには非常に薄いトンネル酸化膜の両方向性に起因してメモリー内容の消失をもたらすおそれのある外乱問題等の多くの短所があり、また、従来の不揮発性のスタティックRAM素子は、操作のため大きな電流需要及び高電圧を必要としたため、不揮発性RAM記憶システムのコスト、使用の容易性及び一般的な応用性に悪影響を及ぼすという問題点を有していた。このため、不揮発性のスタティックRAM装置の使用が制約されてきた。そこで、本願発明の一つの目的は、外部の高電圧又は大電流供給源を必要としない改良された不揮発性の電気的に内容変更可能なスタティックRAM集積回路を提供するために、本願第二発明の要旨記載の構成を採択したものである。

三  取消事由について

原告は、本願出願前においては、電荷トラップ型の不揮発性記憶素子と揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置において、高電圧発生装置をオンチップ化した場合、揮発性記憶素子の記憶内容の「書き込み」は可能であるが、「複写」すなわち、「書き込み」と「消去」の両方を実現することは不可能であると当業者は認識していたとし、当業者が、電荷トラップ型とフローティングゲート型の不揮発性記憶素子を格別異ならない技術と認識していたことからすると、後者の不揮発性記憶装置とオンチップの高電圧発生装置を組み合せることも電荷トラップ型を採用した場合と同様に不可能であろうと当業者は予測するはずであるから、たとえ、引用発明二のようなフローティングゲート型の不揮発性記憶素子と揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置が周知であったとしても、高電圧発生装置をオンチップ化する場合に、フローティングゲート型の不揮発性記憶素子の採用を想到することは容易ではなかったと主張する。原告の右主張の趣旨は、本願出願前において、かかる不揮発性記憶装置における不揮発性化のための電源をオンチップ化する技術に関する前記のような原告主張の技術水準は、相違点〈1〉に関する構成を想到する障害となるものであって、右構成を想到する技術的必然性はなく、引用例二に記載のようなフローティングゲート型の不揮発性記憶素子を採用した不揮発性記憶装置が公知であったとしても、本願第二発明の相違点〈1〉に関するフローティングゲート型の不揮発性記憶素子の組合せは、容易に想到し得るものではないとする点にあるものと考えられるから、まず最初に、揮発性記憶素子と不揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置における不揮発化のための電源をオンチップ化する技術に関連する相違点〈2〉についての取消事由(2)を検討し、続いて、前記組合せの容易想到性に関する取消事由(1)について検討することとする。

1  取消事由(2)について

(一)  原告は、本願出願前において、オンチップの高電圧発生装置を組み込んだ電荷トラップ型の不揮発性記憶素子と揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置は、引用発明三も含めて、「書き込み」は可能であるが「消去」は不可能であるとするのが当業者間の常識であったと主張するので、まず、この点から検討する。

成立に争いのない甲第七号証(引用例三)によれば、引用例三の特許請求の範囲には「書込みおよび消去用駆動回路をメモリセルアレイと共に一枚の半導体基板上に集積してなるMOS構造の不揮発性半導体メモリ装置において、前記駆動回路をインバータ回路とその負荷に並列に設けられた積分回路とから構成し、前記インバータ回路をパルス動作させて前記積分回路から電源電圧より大きい書込みおよび消去用パルス電圧を発生させるようにしたことを特徴とする不揮発性半導体メモリ装置。」との記載があり、その発明の詳細な説明の欄には、「この発明は書込みおよび消去用駆動回路(を)メモリセルアレイと共に一体的に集積したMOS構造をもつ不揮発性半導体メモリ装置に関する。」(一欄二五行ないし二七行、なお、右(を)は明らかな欠落と認める。)、「この駆動回路を不揮発性半導体メモリセルアレイと共に一つのICチツプ内に集積すれば、外部から供給する書込み、消去用の電源電圧を従来のものに比べて約1/2に低減することができる。通常のMNOSメモリを例に挙げると、書込みおよび消去電圧として絶対値で約三〇Vが要求されるが、第一図の回路を用いれば外部からの供給電圧は約一五Vでよいことになる。」(三欄三六行ないし四三行)、「この発明に係るMOS構造の不揮発性半導体メモリ装置は、電源電圧より大きいパルス電圧を出力する書込みおよび消去用駆動回路をメモリセルアレイと共に一チツプに集積している。従つてこの発明によればメモリチツプへ外部から供給する書込みおよび消去用の電源電圧を低くすることができる。」(五欄一七行ないし二三行)との各記載が認められる。

以上の各記載によれば、引用発明三は、電荷トラップ型の不揮発性記憶素子とその駆動回路、すなわち、本願第二発明の高電圧発生装置を一つのICチップ内に集積し、駆動回路で得られる高電圧によって「書き込み」と「消去」の両方を行うことを可能とした発明であるということができる。

これに対して、原告は、引用発明三は、「書き込み」専用回路であり、「書き込み」と「消去」の両方を行うことはできないと主張するので、この点について検討するに、前掲甲第七号証によれば、確かに、引用発明三の実施例に関する第三図は、同第一図の駆動回路をMNOSメモリの「書き込み」回路に適用した回路図を示しているところ、右回路図には消去用回路の記載がないことが認められるから、この第三図からすると、引用発明三は、原告主張のように、「書き込み」専用回路であるといえなくもないところである。しかしながら、「書き込み」と「消去」の両方が可能であることを明記した前記認定の引用例三の各記載に照らすと、この第三図の回路図から直ちに、高電圧発生装置をオンチップした電荷トラップ型の不揮発性記憶素子が「書き込み」専用であると速断することは相当ではなく、むしろ前記の各記載の趣旨からすると、第三図では消去用回路による消去の必要がない場合か、もしくは、消去用回路の記載が省略されたものと解する方が前記の各記載により整合する解釈というべきである。したがって、原告の引用例三に関する前記主張は同引用例の全体の趣旨と調和しない解釈というべきであるから、合理性を欠くものとして採用できない。また、原告は、不揮発性記憶素子の「書き込み」と「消去」には、反対極性の高電圧を得るか、又は、同一極性の高電圧を反対方向に加えるかのいずれかが必要であるところ、引用発明三は単一極性の高電圧を発生するにすぎないから「書き込み」と「消去」の両用に用いることはできないと主張する。しかし、引用発明三では電荷トラップ型の不揮発性記憶素子において、オンチップされた駆動回路、すなわち本願第二発明の高電圧発生装置により「書き込み」と「消去」の両方が実現されていることは前記認定のとおりであり、このことからすると、電圧の極性に関する原告主張の前記問題点も具体的な回路構成の問題として当業者間における技術常識により適宜処理されているものと推認することができるから、原告の前記主張も採用できない。

以上によれば、電荷トラップ型の不揮発性記憶素子において、オンチップの高電圧発生装置により「書き込み」と「消去」の両方が可能であることが引用例三に開示されていると認めることができる。しかして、引用例一の不揮発性記憶素子も電荷トラップ型である以上、公知の技術である、かかる高電圧発生装置を、「引用例一の揮発性記憶素子の現在のデータを対応する不揮発性記憶素子に複写するときの高電圧パルスを得る手段として使用することは当業者が容易に設計変更し得る程度の事項に過ぎない。」とした相違点〈2〉に関する審決の判断に誤りはない。

(二)  原告は、この点に関し、引用例一の回路と同三の回路を組み合わせることはできないと主張するところ、審決が右各引用例に記載された具体的な回路構成を抽出し認定したものでないことは、摘示に係る各引用例の記載内容自体から明らかであるが、仮に、原告主張のように、前記各回路を組み合わせることが不可能であるとしても(なお、被告は、この点を明示的に争っていない。)、前記(一)に説示したように、不揮発性記憶素子が電荷トラップ型である場合において、オンチップの高電圧発生装置により「書き込み」と「消去」の両方が技術的に可能であることが明らかにされている以上、かかる具体的な特定の回路同士の組合わせが不可能であるからといって、右高電圧発生装置をこれらの不揮発性記憶素子と揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置におけるオンチップ電源として組み込むことが一般的に不可能であるとする根拠とはなり難いといわざるを得ない。

(三)  以上の次第であるから、オンチップの高電圧発生装置を組み込んだ電荷トラップ型の不揮発性記憶素子と揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置が「書き込み」は可能であるが、「消去」は不可能であるとする原告の主張は採用できない。

2  取消事由(1)について

原告は、相違点〈1〉に関し、本願出願前の技術水準が電荷トラップ型の不揮発性記憶素子と揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置において、高電圧発生装置をオンチップ化した場合、揮発性記憶素子の記憶内容の「書き込み」は可能であるが、「消去」は不可能であったとする点を前提とした上で、不揮発性記憶素子として電荷トラップ型とフローティングゲート型で格別相違がないと認識している当業者にとって、フローティングゲート型の不揮発性記憶素子を採用し、揮発性記憶素子と組み合わせて右素子の現在の情報内容の不揮発化を図る際、オンチップの高電圧発生装置の組合わせを想到することは容易ではないと主張するが、右の前提自体が誤りであることは既に説示したところから明らかであるから、右の主張は前提を欠くものとして失当といわざるを得ない。

しかして、審決は、引用例二の技術的事項及び右技術的事項が公知である旨摘示しているが、この摘示自体については原告も争っておらず、また、引用例二について拒絶理由通知において言及がなかったことは被告においても争わないところである。しかしながら、前掲甲第二号証によれば、引用例二については、原告自身、本願明細書の発明の詳細な説明の欄において、従来技術に関する文献としてこれを引用していることが認められ(二頁右下欄三行ないし五行)、このことからみて、審決は、同引用例を原告はもとより当業者も熟知しているものとの前提で、実質的にはこれを周知例として引用したものと解するのが相当である。現に、本願出願前に、当業者間において、不揮発性記憶素子として電荷トラップ型とフローティングゲート型が格別異ならない技術として共に知られていたものであることは原告の自認するところである。しかして、前掲甲第二、第三号証、第四号証の一、二及び同第五号証によるも、本願第二発明において不揮発性記憶素子としてフローティングゲート型を採択した技術的意義を見出し難いから、電荷トラップ型である不揮発性記憶素子の「書き込み」と「消去」の両用の電源として用いられるオンチップの高電圧発生装置を、フローティングゲート型の不揮発性記憶素子と揮発性記憶素子を組み合わせた本願第二発明の不揮発性記憶装置の「書き込み」と「消去」の両用の高電圧発生装置として用いることに格別の障害はないものというべきである。したがって、相違点〈1〉の構成を格別のものとすることはできない、とした審決の判断に誤りはないというべきである。

3  以上のように、電荷トラップ型の不揮発性記憶素子と揮発性記憶素子を組み合わせ、揮発性記憶素子の現在のデータ状態を右不揮発性記憶素子に複写する不揮発性記憶装置において、必要な電源を得るための高電圧発生装置をオンチップ化することは当業者において容易に想到し得るところであり、他方、不揮発性記憶素子としてフローティングゲート型は電荷トラップ型と格別の相違がなく、かつ、本願第二発明において不揮発性記憶素子としてフローティングゲート型を採択した技術的意義も認め難いものであるから、当業者がフローティングゲート型の不揮発性記憶素子と揮発性記憶素子を組み合わせた不揮発性記憶装置に高電圧発生装置をオンチップ化して本願第二発明の相違点の構成を得ることにさして困難な点はないものというべきである。その結論においてこれと同旨の審決に原告主張の違法はない。

4  なお、付言するに、成立に争いのない乙第二号証(特開昭四九-七五〇四〇号公報)によれば、右公報には名称を「浮遊ゲート半導体記憶装置」とする発明が記載されているところ、右発明は昭和四九年七月一九日に出願公開されていることが認められるから、この出願公開時期と本願出願の優先権主張の日である昭和五四年(この事実は当事者間に争いがない。)までの時間的経過を考慮すると、右公報記載の技術的事項は本願出願前において既に周知となっていたものと推認することができ、他にこの推認を妨げる証拠はない。そこで、右公報記載の技術的事項の内容についてみるに、前掲乙号証には、「この発明は絶縁物中に埋め込まれた浮遊ゲートに電荷を与えておくか否かにより二値符号を記憶するようにした半導体記憶装置に関する。」(一頁左下欄下から四行ないし二行)、「この消去をチヤネル注入により行う場合は記憶装置のゲートに書込み時の電圧と逆極性の電圧を与える必要があり、これを駆動回路25にて作るにはその構成が複雑になるが、上記アバランシエ注入を利用すれば書込み時と同一極性の電源で消去を行うことができる。」(四頁右上欄一五行ないし二〇行)との各記載が認められる。

右前者の記載によれば、前記公報記載の発明は、浮遊ゲート、すなわち、フローティングゲート型の不揮発性記憶素子を用いた半導体記憶装置に関する発明であり、右後者の記載と右公報記載の第三図を総合すると、右記憶装置において消去をチヤネル注入により行う場合には、記憶装置のゲートに書き込み時と逆極性の電圧を与える必要があるため、右電圧を半導体基板上にオンチップされた駆動回路25(これが本願第二発明の高電圧発生装置に相当することは明らかなところである。)で作る場合は、その構成が複雑にはなるが可能であること、これに対し、アバランシエ注入を利用する場合には、書き込み時と同一極性の電源での消去が可能であることがそれぞれ開示されていることは明らかなところである。

原告は、前記公報記載の発明における高電圧発生装置は、「書き込み」と「消去」の両用のものではない、右発明は外部に消去用の電源を有しているなどと主張するが、前記公報記載の発明が「書き込み」と「消去」に同一回路を使用するか否かはともかくとして(本願第二発明においても、「書き込み」と「消去」に必要な高電圧発生装置の具体的な回路構成まで限定されているものでないことは前記当事者間に争いのない特許請求の範囲の記載から明らかである。)、「書き込み」と「消去」の両用のものであることは前記のとおりであるから、前者の主張は採用できないし、また、後者の主張はその根拠が明らかではなく採用できない。

そうすると、本願出願前において、フローティングゲート型の不揮発性記憶素子において、オンチップの駆動回路、すなわち、高電圧発生装置により、「書き込み」と「消去」の両方を行うことが可能であることは、既に、当業者間における周知の技術的事項であったものということができる。かかる周知技術を前提とし、引用例二記載の技術的事項に基づくならば、本願第二発明の相違点の構成を想到することは容易であると認めることもできるものである。

四  以上の次第であって、審決の取消事由はいずれも理由がないから、本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担及び附加期間の定めについて行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、一五八条二項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 田中信義)

別紙図面(一)

〈省略〉

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別紙図面(二)

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別紙図面(三)

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別紙図面(四)

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